リンパ浮腫の外科的治療

リンパ浮腫について

体にたまった老廃物を運搬するリンパ管が何らかの原因によりふさがり、皮膚や脂肪組織の間に体液が貯留し、腕や脚に浮腫が生じた病態のことをいいます。がんなどでリンパ節を切除されたり、放射線治療を受けた方に起こる(二次性リンパ浮腫)ことがほとんどですが、先天的にリンパ管の発育に問題があり。これが原因でリンパ液がうまく処理できずに貯留してしまう一次性リンパ浮腫(全体の10%程度)もあります。無治療のままだと浮腫が徐々に進行して炎症を繰り返すことにより、皮膚の線維化が進行し、象皮症(ぞうひしょう)などを呈する場合があります。また歩行障害などの機能障害や感染症や悪性腫瘍の発生のリスクも高く場合があります。二次性リンパ浮腫では、手術後すぐに生じる場合もあれば、5年・10年経過して発症する場合があります。

リンパ浮腫の治療法とは

弾性ストッキングによる圧迫やスキンケアによる進行予防が基本となります、効果が限定的な場合があります。リンパマッサージなどの保存療法(手術しない治療法)を組み合わせて行う複合理学療法も効果的とされていますが、連日の長時間にわたる治療を長期間必要とするのが欠点です。当科では、患肢の数か所で皮膚に切開してリンパ管と細静脈をつなぐ手術、リンパ管細静脈吻合(Lymphatico-venular anastomosis:LVA)を行っております。


リンパ管細静脈吻合(Lymphatico-venular anastomosis:LVA)とは

前述のようにリンパ浮腫とは、リンパ管内のリンパ流の停滞です。リンパ管、老廃物を道路と車で言い換えれば、いわゆる渋滞の状態です。そこで、渋滞している道にハイウェイをつなげて、これを解消しようというのが、この手術の狙いです。手術前のリンパ管造影の所見をもとに、皮膚を2cmほど切って手術を行います。0.5mmほどのリンパ管と細静脈をみつけて、それらを切ってつなぐことでバイパスを作ります。超微小血管外科(super microsurgery)の技術により、今までは不可能だった細い血管をつなげるようになりました。入院は約1週間の設定で、術後は患肢挙上をお願いしております。弾性ストッキングによる圧迫などとの複合療法でさらに治療効果は安定します。

ICGリンパ管造影

インドシアニングリーン(ICG)という色素を皮膚の下に注射して、特殊なカメラで見ることでリンパ管の通り道とその状態を観察することができます。切開せずに体表からリンパ管の走行や流れるスピードなどを観察することができます。 通常、手術前日に注射を行い、手術の際の皮膚を切る場所の参考にしますが、手術前後に外来で検診にも有用となります。


当院の治療の流れ

当科での治療の流れは、まずMRIリンパ造影やICG蛍光造影法などによるリンパ管輸送機能の評価を行います。理学療法などの保存的治療で効果がみられないような場合においては、リンパ管静脈吻合術などの外科的治療を行います。術後も理学療法を継続しながら、弾性着衣の着脱の可否を検討していく必要がありますが、リンパ管輸送機能が良好な場合は、浮腫が著明に改善したり、弾性着衣が不要となったりする完治例もみられます。